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2005年4月24日 (日曜日)

何時間かけると実用英語は身につくのか

先日、英語は自動車の運転同様、スキルつまり「何かをやるために必要なひとまとまりの知識とその運用能力」の習得でしかないから、誰でもやり方を間違えなければ習得できると申しあげましたが、習得までにはどのぐらいかかるものなのでしょうか。語学に限らず、こういったことを意識しておかないと、Too little, too slow.で、結局ものの役に立ちません。限りある時間を無駄に使うことになってしまいますから、きわめて重要な問題です。

まず一般的にスキルの習得にどのぐらいの時間数が必要なのかという視点から言えば、認知心理学の研究者であるノーマンは、長年、エキスパートつまりプロの音楽家やアスリートを研究した結果として、最低限5000時間は必要だとしています。太平洋戦争に備えて、米海軍日本語学校は、ゼロからスタートして、1年間で、新聞が読め、前線で捕虜を尋問できるレベルの日本語を習得させましたが、こういった実績からもうなずける数字です。軍隊の学校であり、特殊なケースですが、ともかく、毎日14時間、週6日、年間50週と資料にありますから、年間4200時間です。毎日3時間なら4年で達成できます。

一方、同じく専門家のスキルを研究しているエリクソンによると、ある分野においてプロのレベルに達するには、毎日4時間練習して10年かかると言います。なぜ4時間かと言うと、それを超えると集中力を維持できなくなり、効率が落ちるからだそうです。

こう見てきますと、スキルの習得には最低でも5000時間かかり、また、プロのレベルになるには10年かかるというのが一つの目安であることがわかります。

それでは、音楽やスポーツあるいはチェスといったスキルではなく、外国語の習得にはどのぐらいかかるのが平均的とされているのでしょうか。この点については、アメリカ政府が海外の任地に赴く外交官や軍人の語学力を測るために用いている指標があります。これによりますと、level of proficiency to really do something useful in the language(その言葉を使ってまともに用を足せる程度の運用能力)に達するには、フランス語、スペイン語、イタリー語の場合、750時間を要します。親戚筋に当たる言語ですから、まあ、納得できます。ただ同じ親戚筋でもドイツ語はむずかしいと見えて、1320時間となっています。次にちょっと毛色の違うロシア語となると1500時間。最後にまるで別世界と言える、中国語、韓国語、日本語は2760時間となっています。60年以上もこの種の実用語学教育に携わってきた機関のデータですから、きわめて信頼性が高いものです。

上で見たように、英語のネイティブスピーカーがまるで言語構造の異なる日本語の習得に約3000時間かかるとするなら、おおざっぱな話、日本人が英語をマスターしようという場合にも、やはりそのぐらいかかると考えてよさそうです。

以上で見てきた数字をざっとまとめると、ものの役に立つレベルの英語力を身につけるには、およそ3000時間から5000時間かかると言ってよさそうです。そうとすれば、土日もなく毎日3時間費やしたとして、3年から5年で一応の水準に達せます。反面、毎週45分という語学番組のようなペースで行くと一年間に40時間弱ですから、75年かかります。これで、内容が浮世離れしていたり、新たに学ぶ語数が少ないといったことになれば、75年かけたところで何の役にも立ちません。英会話学校に通っている人も、ざっと計算し、ご自分の平均余命と相談されたらいいと思います。いずれにせよ語学番組と言い、英会話学校と言い、本当に習得したいのに、専らこういった手段に頼っている人は浮かばれません。到底間に合わないからです。

わが国の場合、中学高校での英語の授業時間は、少ないところでも約1500時間かけているのですから、到達目標を3000時間とした場合、半分は来ていることになります。しかし実情はみなさんご承知のとおり、もう1500時間やったところで無駄に終わりそうです。どうしてそうなのかを考えますと、まず、学習すべきものの範囲と方法に問題がありそうです。現場を知らないので個人的推測に留まりますが、ひとまずスキルとしての英語の基礎を固めるために必要な単語が外され、その一方、受験に出るからということで、ネイティブもあまり使わないような単語が教えられているようなことがあるのではないでしょうか。学習の方法も、語学は読み書きをあとまわしにして、ともかく「聞く、話す」という、いわば音を軸にすえた方式が効率的であると実証されているのに、その逆を行っていると承知しています。

英語を勉強している人のために私なりの見方を申し上げますと、単語力、文法事項のバランスが取れたメニューを軸に据えて、自分に合った方法で、一定の時間をかけて反復練習していけば、それがいつかクリティカルマスに達し、ついに「開眼」する日が来るものです。知識経験が一定水準に達していると、問題意識という起爆剤を使って、それを問題解決に応用できるようになると「カンの構造」(中公新書)は説いていますが、それと同じことでしょう。

ものにするには大体4000時間はかかるという現実を直視して、地道に勉強して行かないと、英語という知的スキルは身につきません。しかし、いったんやり遂げれば、住んでいる世界が一気に広がります。自分の例で言えば、経済を勉強しようと買いそろえた日本語の本はどれも退屈かつ難解で読み切れませんでした。ところが英語の入門書、専門書はいずれも読者サービスに努めるスタイルで、笑えたりするのです。経済の本を読んでいたら噴き出してしまったという経験をしてみたいと思いませんか?それは可能なのです。4000時間後には。

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コメント

はじめまして。
ブログを始めようと、あちこち見学していますが、ここが一番おもしろかったです。

こうして数字で示されるとよくわかりますし、自分のやり方を振り返るいいきっかけにもなります。

考えてみると、日本語教育では100時間学習したとか、漢字1000語とか、目安の数字がよくでてきますが、学校で英語を習った時にはそういう数字を聞いた記憶がありません。

やみくもに学習するより、達成時間を考えて目標に近づく努力をするほうが、私には納得できるやり方に思えます。
今後の記事も楽しみにしております。

かものはし様

英会話学校に通い、あるいは熱心にラジオの語学番組を聴いているというのに、到達目標を見極めた上で、竹中大臣の好きな工程表といったもので学習を進めるといった話を聞いたことがなく、前々から不思議に思っていました。同じ感覚を共有してくださる方と出会えた上、その方がおもしろいとおっしゃってくださるとあっては、ますます頑張らねばと思います。

どうぞ今後ともよろしくお願いします。

日向清人

投稿: かものはし | 2005年4月30日 (土曜日) 午後 12時17分

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