ライティングの盲点:カンマと引用符の関係、そして空白スペースの処理など
仕事の関係で英文ライティングが日常化している人でも意外と気づかずじまいで終わっている、ルール違反が二つあります。一つは、カンマまたはピリオドと引用符が文末で重なるケースではカンマは内側にというルールに反するケースです。他は、括弧でくくる部分も、一つの単語と同様、意味上の固まりである以上、その部分の前後に半角スペースを入れて、他の部分との境目を示すべきであるのに、直前の字と括弧の部分をスペースなしで、つまり、くっつけて書いてしまうという問題です。もう一つ、ルール違反とまで言えるのか微妙なところですが、センテンスとセンテンスの間のスペースは原則的に空白スペース二つではなく、一つだという慣行が見落とされていることを取りあげます。今回は、こうしたライティングのときに見落とされがちな点を取りあげてみます。
★ カンマまたはピリオドと引用符が重なったらカンマは内側に
同僚の女性が、「いましがた辞表を出してきたわ」と言ったので、それを引用文を使ってメールで関係者に伝えようという場合、引用文の前にはカンマを打つというルールはみなさん、比較的よくおぼえているので、She said, "I just handed in... と書き始めるでしょうから、ここまでは問題ありません。問題は、最後の部分を my resignation". というふうにピリオドを引用符の外側に入れるか、それとも、my resignation." というふうに引用符の内側に入れるかです。教わることがないためか、結構、みなさん、自己流で引用符の外側に打つようですが、正しくは内側に打ちます。こういうことです。
間違い → She said, "I just handed in my resignation".
正しい → She said, "I just handed in my resignation."
このことは、カンマの場合も同じで、「パッケージには『取扱注意』という表示をつけるはずだったのに、彼らはこちらからの指示を完全に無視した」と書くのであれば、正しくはカンマは引用符の内側に入れますから、次のようになります。
間違い → The packages were supposed to be labeled "Handle with Care", but they completely ignored our instructions.
正しい → The packages were supposed to be labeled "Handle with Care," but they completely ignored our instructions.
上のHandle with Careにはもともと句読点が含まれていませんから、こだわれば、この引用部分の中にカンマを打つのはどうかとも言えますし、事実、こういった場合は引用符の外側に打つべしと説く人もいますが、少数派です。実際、1993年に出ているMerriam Webster's Sectretarial Handbook (Third Ed.)は、Today the distinction is made by few writers.(こんにち、こういった区別をする人はあまりいない)と言っていますし、Webster's New World Guide to Punctuationに至っては、Commas and periods are always placed inside the closing quotation marks. There are no exception to this rule in American English. (カンマとピリオドは常に締めくくる引用符の内側に打つ。アメリカ英語の用法上、この原則に対する例外はない)とまで言い切っています。
ちょっと注意していただきたいのは、ここまでの話はビジネス英語の主流であるアメリカ英語の話で、イギリス英語には独自のルールがあることです。ファイナンシャルタイムズやエコノミストの記事をご覧になればわかりますが、カンマやピリオドは引用符の外側に置かれており、しかも、アメリカ英語の場合、引用符は二重のクォーテーションマークであるのに、イギリス英語だとシングルです。イギリス英語が好きだとか、慣れているといった方はイギリス英語でも当然かまわないわけですが、その場合、日付の表記法やスペリングを含め徹頭徹尾イギリス式の表記によることが必要です。
なお、引用符との関係でちょっとおもしろいのは疑問符の扱いです。疑問符が文末に来て、締めくくりの引用符と重なるような場合は、引用文自体が疑問文かどうかでことが決まります。Did he really say, "Your report is trash"? では、「おまえのレポートはカスだ」という引用部分そのものは疑問文ではなく、この引用部分を含むセンテンスの全体が疑問文ですから、引用符の外側に疑問符を打ちます。しかし、His boss asked, "Don't you think this report is trash?" では、彼の上司が「このレポート、カスだとは思わんか?」と尋ねている様子をセンテンスにしていますから、それ自体が疑問文である引用文の一部として疑問符を打つので、結果として、締めくくる引用符の内側に疑問符が収まる格好となります。
★ 括弧の前には必ず半角スペース
和文で括弧を使う場合は、全角文字であることから、括弧が始まる直前の文字と左側の括弧がくっつきすぎて読みにくいということがありません。実際にも、括弧の前にわざわざ半角スペースを入れたら、妙な空白ができて、気になってしまうことでしょう。ところが、この習慣を英文ライティングにそのまま持ち込み、括弧書きの部分の左端つまり左の括弧と直前の字、さらには直後に続く字とがくっつきすぎて、読みにくくなります。こういうことです。
普通 → Their parent company (ABC Inc.) is not listed inJapan.
読みにくい日本式 → Their parent company(ABC Inc.)is not listed inJapan.
特に学生のペーパーはほぼ100%と言っていいぐらい、この括弧の問題を意識していません。誰も教えてくれないから無理もありませんが、あるとき、たまたま教員室で、学生のペーパーを読んでいたアメリカ人教師が「どうして、どれもこれも括弧の前にスペースがないんだ」と、周囲の人々にこぼしているのに出くわしたことがあるぐらいで、括弧の前に半角スペースというルールが当たり前の人間にとっては、苦痛と言えるぐらい目障りなのです。たかが半角スペースですが、やはり気になるものは気になるのです。こういったことは中学や高校の英語の時間に教えないのでしょうか。不思議でなりません。
そもそも半角スペースぐらいと馬鹿にしてはいけません。ライティング界ではそれなりの「地位」があり、例えば、挿入される補足情報を左右一対のダッシュでくくるときも、イギリス式は短めのエヌダッシュ(固定幅の文字ではNの方がMより狭いのでこう呼ばれます)を使い、しかも、個々のダッシュの左右に半角スペースが入っています。これに対して、アメリカ式のダッシュはエムダッシュ(Nより幅広のMの幅という意味です)で、しかも左右に半角スペースが入りません。例えば、「転職するという決断(ちなみに自分では正しい決断だと思っています)は思っていたよりむずかしかった」と書く場合、次のような差となって表れます。上がアメリカ式、下がイギリス式です
アメリカ式 Making the decision to change jobs―and, by the way, I consider it a good decision―was more difficult than I had thought.
イギリス式 Making the decision to change jobs − and, by the way, I consider it a good decision − was more difficult than I had thought.
★ センテンスどうしの間のスペースは一つのみ
ワープロが普及する前のタイプライター文字は、それぞれの幅が均一であり、アルファベットのNもMも文字幅としては同じでした。等幅フォントということであり、今でもパソコンに大体入っているcourierという書体がその代表格ですが、こうした書体の場合、センテンスの最後のピリオドのあとのスペースが一個だとわかりにくいので、慣行上、空白スペースは2個と決まっていたものです。
しかし、その後、パソコンの普及に伴い、可変ピッチフォントと訳されるプロポーショナルフォントが使われるようになります。これは、われわれのような素人でも、NとMとで字の幅も違い、従って、印刷物レベルの印刷ができるようになったということで、歓迎すべき変化です。同時に、もはや等幅フォントではないのだから、センテンスの間のスペースは一個だけでいいというふうに、慣行も変わったことを意味しているはずです。ところが、おかしなもので、センテンスの間にスペースを入れるときは半角の空白2個分という等幅フォント時代の慣行の方は是正されずに、そのまま残っているようです。特に長老秘書などの作成する文書によく見られますが、今なお丹念に空白スペースを二つずつ入れる格好になっているものです。
注記 タイプライターが廃れた結果、ピリオドのあとのスペースを二つではなく、一つとするのが普通になっているという点については、Googleで、引用符でくくってフレーズ検索であることを指定して、"only one space after a period"と入力してみると、いくつも関連の記事が出てきます。
長老が新人を教育するというのは麗しい伝統だとは思いますが、長老も時代の変化をきちんと意識しておかないようでは、ただの年寄りです。この点、商社などでは、部内で代々伝わる書式を使いまわしたりしていますが、中には時代劇かと思うような古めかしい言い方なのに、誰もそれを直さないまま使っているというケースを見受けるわけで、惰性に流されるまま失敗を重ねている点で、何か通ずるものを感じます。
なお、パソコンが普及し、誰でもプロポーショナルフォントを使ったきれいな文書を作れる時代にCourierのような等幅フォントを使い続けるのだというなら、それはそれで結構です。ただ、そうであるなら、何ゆえに空白スペース二つが必要とされているのかを意識し、等幅フォントで作成した文書の書体を変更し、プロポーショナルフォントにするのであれば余計なスペースは削除してもらいたいものです。
★ むすび
何だか今回は細かい話になってしまいましたが、英語できちんと仕事をしているプロはどこでどう習うのか、ともかく、上で説明したような失敗はまずしていません。英語ではよく、神(または悪魔)は細部に宿るという意味で、The devil is in the details.とかGod is in the details.と言いますが、この二つの言い方が並存していることからもわかるとおり、「細かいところで手を抜いちゃ駄目だよ」と注意を促す点では、神も悪魔も共同歩調をとっているのです。

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