英語と日本語のライティングの違いは何か
英文ライティングにおける常識をちょっと考えてみたいと思います。ここで言う常識はカンマの打ち方といったメカニクス(センテンスを作るといった側面で問題となる技術的事項)の話ではなく、もっと根本的な英語でのものを書く際の常識とされていることがらのことです。(カンマの打ち方などについては、こちらの記事を初め、カテゴリー別目次中のライティングの項をご覧ください)
わが国の国語の授業でどの程度作文に時間を当てており、どういった構成・内容のものを書かせているかを承知していません。また、英作文と言えば、文法事項を理解し、記憶したかを試すための書き換え問題に毛が生えた程度でしょう。このように、作文とひとくちに言ってもどういった内容のものを指すかにつき、共通の定義的なものはないようです。おそらくはわが国の文化がいわゆる「察しの文化」であって、こちらから体系立てて自分の考えを述べなくても用が足りるからでしょう。
ところが、英語圏の世界は察してくれる、親切な人のいない世界ですから、そうは行きません。こちらから筋道立ててものごとを説く必要があるので、早い時期からきちんとしたライティングを教えてくれます。実際、わたしもアメリカンスクールでのライティングの授業で、何かをdescribeしたり、classifyしたりする作文の練習をさせられたおぼえがあります。
このように日本と英語圏ないしは欧米の比較をすると、欧米礼賛論のように受け止める方もいらっしゃるでしょうが、そうではなく、日本が他国の英語の使い手と伍して働く時代が来ている以上、普通の英語の使い手がどのようなライティングのスキルを身につけているかを知っておき、それに負けないようにする必要があるので、こうしてご紹介しているつもりです。
★ ライティングの教科書に書いてあること
ライティングの入門書はいくらでもありますが、中学高校レベルのGetting Started in Composition (National Textbook Company)の目次をのぞくと、Why Do We Write? Planning to Writeといった導入部に続いて、こなすべき項目として、Description(描写)、Classification(分類)、Directions(指示)、Narrative(ストーリー)、Persuasion(説得)といったものが並んでいます。このレベルの教科書としてはごく基本的な内容です。したがって、普通に教育を受けている人なら、この程度のことを常識として知っているということです。
ちょっと勉強のできる方は何だそのぐらい、自分でもこなせると思われるかも知れませんが、こと英文ライティングに関してはそれではいけないのです。いずれも型があり、まさに型どおりに書かないと不合格です。不合格というよりも、相手に何のことか通じないで終わってしまいます。例えば、自分ではいくらdescriptionのつもりで書いていても、descriptionでのパターンとして確立している共通の理解にそくした書き方でないと、相手にはdescriptionと受け止めてもらえません。
型ということで言えば、わざわざdescriptionであることを相手に知らせるのがしきたりになっていますから、The following is a description of...と書きはじめるのが一つのパターンです。そして、これに続いて、それが何であり、形状や用途等において他のものとどう違うのかを的確かつ具体的に描写することになります。下の例でのparts程度の、誰の目にも明らかなことを漠然と書くのはスペースの無駄ですし、本来の目的も達成できません。
Descriptionにおける書き方の一つのお手本は、Fedexが勧めるエア・ウェイビル(航空貨物運送状)の書き方で、次の4項目を挙げています。
1. What is it?
2. How many?
3. What is it made from?
4. What is its intended use?(このintended useは用途のことです)
そして、内容を説明するための記述についても、以下のとおり、不明確で駄目な例と、具体的であり、これならいいという例を挙げています。
Partsは駄目で、Two steel springs for woodworking machineは合格。
Giftは駄目で、One men's knitted sweater (100% cotton) - unsolicited giftは合格。(unsolicited giftというのは相手からの要求によらない贈り物のことです)
Samplesは駄目で、200 cm x 400 cm nylon carpet sample for demonstrationは合格。
Documentsは駄目で、30 pages of legal documentsは合格。
Foodは不十分で、The word Food (or FS) should be the first word in the description followed by a detailed description of the food items. (e.g., FOOD - one can of sliced peaches)で合格。
★ 英語を勉強している人にとってのライティング
英語を勉強している人でライティングに苦手意識を持っている人は、カンマの正しい打ち方を会得しようと努めるものです。たしかに、アカデミック・ライティングであれ、ビジネスライティングであれ、カンマのようなメカニクスはマスターする必要があります。本誌の5月24日号あるいは6月25日号で取りあげたようなことは、ごくごく基本的なことですから、教育のある英米人はまず間違えないものばかりであり、したがって、こういったところで間違っているようでは、あなどられてしまいます。
また、冠詞の使い方を初め、基本的な文法も当然、大事です。センテンスの作りも大事です。単文を並べるスタイルはうまくやればヘミングウェイがそうであったように、きびきびした文体を作れる反面、どうかすると、「朝ご飯を食べた、マル、学校に行った、マル、お昼を食べた、マル」式の幼稚な文体で終わってしまいます。ビジネスには不向きです。重文は言うと、聖書がそうであるように、余韻を残し、考えさせられ、ありがたい感じすらしてきます。しかし、ビジネスではこういったスタイルは不向きです。そこで、結局、複文をメインにすえながら、必要に応じて単文や重文をまぶしていく感じが主流となります。
しかし、いずれもセンテンスのレベルの技術論であり、こういったことにばかり気をまわしていると大局を見失います。何よりも大事なのはこういったセンテンスの特性を心得た上で、センテンスをいくつも作って組み立てる文章全体のレベルにおいて、思いのままにコントロールすることです。パラグラフ、さらには文章そのものを書く目的に応じてきちんと構成できるかが何よりも大事なのです。
★ さいごに
先日、教育関係者と雑談したおりに、日本の有名大学でHOTSを熱心にとりあげ、その普及まで図ろうとしているところがあるのを知り、たいへん驚きました。このHOTSというのはHigher Order Thinking Skillsの略称で、中身は、学習の進度が他より遅れがちの子供たちを助けるために考案された知的スキルの養成術です。
これ自体はいいプログラムで、なるほどと思わせる内容ですが、もともと小学校4年から中学生レベルを対象として一種の知的「矯正ギブス」であるものを日本の大学生に適用しようというのは、要するにその前段階におけるわが国の教育のどこかがおかしい、役立たずのもので終わっているということなのではないでしょうか。その意味で驚き、がくぜんとしました。
そう言えば、友人が教えているある大学では学生の日本語のレベルが不十分であることを大学側が心配し、ひとまず読むに耐えるレポートが書けるよう、一種の作文指導をしていると聞きます。世の中全体の知的レベルが下がってきていると片付ける前に、この種の知的スキルはきちんと教えないと身につかないのではないか、各自の自助努力にゆだねておいていいのかと社会全体の問題としてとらえるべきだと思います。
それはともかく、英語が世界語なのか、英語がすべてなのかという議論は別として、少なくともビジネスの世界ではたがいに英語でやりとりしており、外国人で英語のうまい人は、結局は、英語圏の教育がうちたてているモデルにしたがっていますから、こちらもそのモデルがどういったものであるかを理解し、利用していったほうが、話もはやいし、自分の言いたいことをねらいどおりに伝えるというコミュニケーションにもかないます。
ただただ漠然とライティングといったことを口走っておしまいにするのでなく、じっくりとライティングの正体、つまり英文ライティングと言われるものがどういうもので、日本語のライティングとどこが違うかをみきわめた上で、その習得に努めるべきだと考えます。
追記:ライティングの具体的な手順については、本誌のEメールの書き方シリーズに加え、以下の記事が役立つと思いますので、あわせてご覧ください。
英語の小論文はマニュアルで書く
http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2005/07/post_afba.html
英語の小論文を書いてみる
http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2005/07/post_43ca.html
英語の小論文を書いてみる(続)
http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2005/07/post_19df.html
英語の小論文を書いてみる(完)
http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2005/07/post_8f46_1.html
起承転結の呪い
http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2005/07/post_9a1d.html

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