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2005年9月 1日 (木曜日)

(続)学校英文法のうそ:主語がto不定詞、動名詞のいずれでも訳は共に「〜すること」だから意味は同じ

動詞のing形(以下「動名詞」)やto不定詞(以下「不定詞」)が文法書などで取り上げられるときのパターンは決まりきっています。もっぱら、動詞の目的語の問題として扱われ、I hope to see you next week.のように要求・希望・約束などを表す動詞と組合わさるのは一般に不定詞だけれど、He enjoys listening to jazz music.のように動名詞しか目的語に取らない動詞もあるよ、と説明する一方で、次いで、I forgot to call him. vs I forgot calling him.のように目的語が不定詞か動名詞かで意味が違うケースがあるよ、と説明する程度でひととおり終わるという感じがあります。

日本語の英文法解説を読んでも、主語に不定詞句が来ているセンテンスの説明を読むと、「不定詞の部分は『〜すること』と訳すのが基本です」とし、次に主語に動名詞句が来ているセンテンスの説明はどうかと読んでも、まるで同じものかのように、「訳も、不定詞の場合と同じく、『〜すること』となります」などと書いてあります。

これでは、あの有名な「百聞は一見にしかず」つまりSeeing is believing.も、To see is to believe.でもかまわないということになってしまいます。しかし、誰もTo see is to believe.とは言いません。その訳は以下の説明を読んでくだされば納得してくださることでしょう。(ちなみにTO不定詞を主語に持ってくる構文は、Longman Student Grammar of Spoken Englishによると、conversation, fiction, news academic proseという4つのカテゴリーを通じてrareとなっています。自信のない限り使わないほうが賢明と言えそうです。)

★ 英語の使い手にとっての不定詞と動名詞のイメージ

このように、学校文法を中心に動名詞と不定詞は一緒くたにされていますが、英語の使い手にとってはイメージが違っており、それに応じて使う場面も違っています。

例えば、Martin ParrottのGrammar for English Language Teachers (Cambridge University Press)を見ると、そこで語られるものが「こうではないか」という推測を含み、あるいは、仮定の問題であるような場合(something is more speculative or hypotheticalということ)、不定詞に傾き、「普通そうなる」といったこと、あるいは、既に生じたことを語る場合(to describe what actually happens or has happened)に動名詞に傾くものだと説明した上で、次の二つのセンテンスを対比しながら、こうした用法上の違いを実にうまく説明しています。

(a) It's bad for you to do exercise straight after a meal.
(b) Doing exercise straight after a meal is bad for you.

そして、(a)につき、If you were thinking about doing some exercise, perhaps you shouldn't.とコメントしています。つまり、to do exercise straight after a mealの下りは、不定詞が使われていることから、「食後すぐに運動したりすると」という感じで、仮定の問題と扱っているわけです。これに対して、(b)については、これはstatement of factだとしています。つまりDoing exercise straight after a mealというふうに動名詞が使われていることから、「食後すぐの運動は」という感じで、一つの具体性のある客観的状況を取りあげる格好になっています。

一方、A. J. ThomsonとA. V. Martinetの共著、A Practical English Grammar (Oxford大学出版局から出ている本ですが、たしか邦訳があります)では、こんな例を取りあげています。

(a) He found parking difficult.
(b) He found it difficult to park .

まず動名詞を使っている(a)は彼ににとり「駐車がいつもむずかしい」ことを物語っているのに対して、(b)は、「その時に限って駐車がむずかしかった」とも取れるし、「いつもむずかしい」とも取れるけれど、「いつもむずかしい」といったことを言うのであれば、普通は、動名詞の方を使う、と、こう説明しています。

どこから、こういったニュアンスの差が生まれるかと言えば、英語の使い手にとっての感覚的理解があるからでしょう。たとえば、Geoffrey BroughtonはPenguin English Grammarの中で、不定詞はoften carries a general future meaning(全般的に未来志向の話であることが多いもの)であるのに対して、動名詞は、それがどのように使われていようと、still carries a sense of ongoing activity(やはり今なお終わっていないコトという意味あいがある)としています。

同じことをPeter Masterは、Systems in English Grammarの中で、不定詞はunfulfilled possibility(まだ具体化していない可能性の話)という感じを伝えるのに対して、動名詞はreal experienced event(実際に経験した出来事)という感じを伝えるとしています。

★ まとめ

主語の位置に動名詞ないし不定詞を持ってこようという場合、学校文法の世界ではどちらも「〜すること」と訳すぐらいで、どちらでもいいかのようにされていますが、英語の使い手たちはきっちりと使い分けています。上で紹介した、そういった感覚を自分なりに乱暴にまとめてしまえば、「これからのこと」を言うなら不定詞、「これまであったようなこと」を言うなら動名詞です。

こういった視点から考えると、人と会ったとき、なぜNice to see you.と言うのが普通で、Nice seeing you.が少数派なのか、また、別れ際に言うのが、なぜNice talking to you.が普通で、Nice to talk to you.とはまず言わないのかがわかってきます。

また、「英語講師の仕事の息抜き日記」というブログに「学校で習ったのとは違う英文法」という記事がありますが、その中で、アメリカの大学の先生が「動名詞のほうが主語にするにはふさわしい」とおっしゃっているくだりも、ここで説明してきた感覚をもとに考えると、「そうだろうな」とうなづけます。ちなみにこのブログの主は大学で英語を教えてらっしゃるとのことですが、ご自分のプロフィールに「きれいなものとおいしいものが大好きです」と書かれているだけあって、きれいな英語を追求されている姿勢が伝わってきます。ためになるブログです。

kurofuku_a

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コメント

はじめまして。Prodigy英語研究所の刀祢というものです。本当にすばらしいSiteですね!to V とVingの説明には感銘を受けました。
僕も文法特に前置詞を研究し続けています。

 日向さんのような方に申し上げるのは畏れ多いのですが,今月末,「前置詞がわかれば英語がわかる」(ジャパンタイムズ)というささやかな本を出します。前置詞の本というより,前置詞から英語のしくみを解明する本です。to Vに関しても,議論しています。11月25日(金)の朝日新聞書評欄ブックタイムズにのる予定です。
 日向さんの本もチェックします。 うちの掲示板にもぜひ来てください。 ではまた。

[返信]

こんにちは。コーパスをもとに英語を教えてらっしゃるんですね。私も used English は何かというアプローチによっておりますので、共感をおぼえました。前置詞の本、洋書の世界でも、知っている限り、きちんと説明してくれているのは一冊だけですから、楽しみです。協力して一般の方々の英語力を押し上げていければと思っています。

日向清人

投稿: 刀祢雅彦 | 2005年11月20日 (日曜日) 午前 02時41分

とても勉強になりました。ありがとうございました。

[返信]

お役に立てたようで、うれしいことです。これからもどうぞよろしくお願いします。

日向清人

投稿: yu-keijima | 2005年11月10日 (木曜日) 午前 09時09分

たまたま網帖検索していましたら、日向さんのBlogに遭遇しました。

日向さんが引用された「A Practical English Grammar」は私の座右の書の一つです。この本のお蔭で私の英語の根幹的基礎力を補強することが出来ています。 その本の中から以下を日向さんが引用されていますね。

(a) He found parking difficult.
(b) He found to park difficult.

確かb)の例題は、その本の中で

b) He found it difficult to park.

として書かれてあると思います。以下その例を引用します。

"He found parking difficult" would mean that he usually/always found it difficult. "He found it difficult to park" could refer to one particular occasion. It could also mean that he always found it difficult, but it is more usual to express this ideay by gerund.

とありますように、意味の差は非常に微妙ですが、どちらかと言えば、日常的またはいつも、駐車が難しいことを言いたい場合には、動名詞を使った方が良いだろうということだと思います。

確かに日向さんが仰せの如く、私も例外なく学校英語というより受験英語でto infinitveと動名詞は書き換え問題で同じものとして教えられてきましたので、英国のロンドンで遭遇した当文法書により頭を大きな木槌で殴られたような衝撃を得たのは確かです。

多分、日向さんが仰せの学校英語の問題点は、英語を使う観点からよりも解釈の観点から教えることに重きを置いているために、国際ビジネス実務の世界で英語を日々使っている人から見れば、日本の学校英語は物足りないと感じます。

小生は某翻訳学校でビジネス文献の日英翻訳を教えている講師ですが、英文法に関してはいつも当書を参考にして、Google検索による実例を付加しながら、教えさせております。

当文法書をご参考に解説されている日向さんのことを知り幸いです。

これからもぜひご活躍されんことをお祈り致します。

冨永信太郎

[返信]

コメントありがとうございます。たしかにHe found it difficult to park.とすべきものをHe found to park difficult.と誤って書き写しておりました。お詫びして訂正いたします。

日向清人

投稿: 冨永信太郎 | 2005年9月 7日 (水曜日) 午後 05時24分

どういう文脈で、なぜそう書いたのかは忘れましたが、以前どこかのフォーラムで「To不定詞を主語に使うのはできるだけ避けたほうが良いですよ。あまり見かけないので。」と書き込んだことがあります。その後検索してみると、To不定詞が主語に使われている事例がゾロゾロと引っ掛かってきまして、迂闊なことは書けないのもだなと反省しておりました。

しかし先生の説明を読んで、あの時の知ったかぶりもあながち間違いではなかったのだと分かり安心しました。

[返信]

検索ではたしかにTO不定詞を主語にしているケースがひっかかりますが、Longman Student Grammar of Spoken Englishによると、TO不定詞を主語にするのは、conversation, fiction, news academic proseという4つのカテゴリーを通じてrareとなっています。ご安心ください。(これ、考えてみれば、本文に補充する価値がある情報ですね)

soudenjapanさんが「あまり見かけない」とされたのは、それほど多種多様な英語に多く触れてこられたという経験をが言わせてんだろうなと拝察されるわけで、感心します。アメリカ人なみにいろいろなものを読みこなしてらっしゃるんでしょうね。たのもしいことです。

ところで、日曜日にもかかわらず、お越しくださり、ありがとうございます。

日向

投稿: soudenjapan | 2005年9月 4日 (日曜日) 午後 02時50分

Broughtonの説明は上手いですね。
このように本来、極めて重要な意味の
違いが、明示的な文法指導の中でさ
え、明示的に教えれていないのが高
校英語の問題点だと思います。(私は
できる限り触れるようにしていますが。)

このような意味の微妙な差をある一定
程度網羅した本が出ればよいのではな
いかと思います。

Parrot氏には2年前にオックスフォードで
お会いしました。Focus on meaningある
いはFocus on formsを前提する英語教
員が多い中で、Parrot氏は
Focus on formの効果的な指導法につ
いて発表をされており感銘を受けたのを
覚えています。

[返信]

コメントありがとうございます。

文面から学校現場という制約の中で、学生に通じる英語を
教えてやりたいという姿勢が拝察され、頭が下がります。

また、英語の専門家がこのブログを読んでいてくださるのかと思うと
緊張するものの、刺激になり、ありがたいと感じております。

日向

投稿: 岩崎永一 | 2005年9月 1日 (木曜日) 午後 12時42分

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