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2005年10月11日 (火曜日)

阪神タイガース上場問題を考える:「上場する」を英語で言うと

村上氏をはじめとする投資家グループ(ファンド)の阪神電鉄株取得に伴い、一般紙でも、阪神球団つまり株式会社阪神タイガースの上場が取りざたされていますので、上場とはどういうことで、英語ではどう言うのかを見ておきます。

まずわが国の英字新聞を初めとするメディアがどういう言い方で報道しているのか気になり、ネットで検索してみたところ、以下のとおりでした。

Japan Times
Murakami's proposal to list the shares of the Hanshin Tigers professional baseball team on a stock exchange...

Asahi
Assuming Murakami pushes his plan to list the Hanshin Tigers...

Yomiuri
...the company aims to boost its profit by selling Hanshin Tigers shares on the market.

Mainichi
An investment fund... has proposed that the stock of a subsidiary that runs the Hanshin Tigers professional baseball club be listed on the stock market.

Kyodo
Murakami Fund proposes listing Hanshin Tigers shares.

Nikkei
M&A Consulting Inc.'s proposal calls for conducting an initial public offering of Hanshin Tigers shares.

★ 「上場する」を英語にすると

普通、「X株が来週ニューヨーク証券取引所に上場される」と言いたいときは、たしかにX shares will be listed on the NYSE next week.といった言い方をよくしますから、上の例では、朝日新聞の英語が一番ニュートラルで、共同通信のが一番すっきりといったところでしょうか。くどいのが毎日新聞です。

しかし、「何々が上場された」「何々を上場する」という言い回しを聞いて、普通、英語を話す人の頭にぱっと浮かぶのはlist何々より、take何々publicか、何々 is going publicという英語ではないでしょうか。その証拠に学習者向けの英語辞典で、動詞listの項を見ても「上場する」という語義は普通載っていませんし、他面、Barron's Dictionary of Business Termsには、この種のlistがわざわざ載せてあるぐらいですから、やはり特殊なことばという感じを否定できません。

何であれ、私だったら、take publicをまっさきに思いつきますから、「投資家集団は球団を上場したがっている」というのを英語にしろと言われたら、The investor group wants to take the baseball club public.と訳すことでしょう。

日経がちょっと目を引くのは、一番専門用語っぽい言い方つまり、「新規株式公開」を意味するinitial public offeringを使っている点です。

何であれ、「X株を上場する」と言いたい場合は、ちょっと硬い言い方が、list X shares on the stock marketで、より一般的と言うか通りのいいのが、take X publicという言い方だと私は思います。他面、「新規株式公開を行う」という、専門的な言い方によりたいなら、conduct an initial public offeringです。なお、このpublic offeringはもともとは新たに株主になろうと引き受けてくれる者を一般から募る公募増資のことですから、新規公開以外の場面では、The company announced that it will make a public offering of 7 million shares of common stock.(同社は普通株式700万株の公募増資を行うと発表した)といった感じで使います。

この他、株式公開という意味では、go publicという言い方を使います。ただ、その主体はsharesよりはcompanyの方が普通です。つまりThe company is going public.とは言うが、The company's stock is going public.とはあまり言わないし、Our shares are going public. とはまず言いません。

このgo publicをよりインフォーマルにしたdebutもよく経済ニュースで見ます。証券取引所ではなく、証券会社間での相対取引(あいたいとりひき)によることになる店頭市場での売買銘柄としてデビュー(いわゆる店頭公開)なら、X debuted on the OTC market.です。このOTCはover the counter marketの省略形です。

おもしろいのはイギリス英語で、initial public offeringあるいはgo publicで形容される新規株式公開のことをflotationと言います。ですから、「X社が来年、ロンドン証券取引所に上場するつもりだ」と言いたいなら、X Ltd. is to seek a flotation on the London Stock Exchange next year.となります。動詞floatを使うなら、X is to float its shares on the London Stock Exchange next year.です。

★ 上場するとはどういうことか

上場するというのは、自社の株式が証券取引所など公の市場で売買されるようになることです。ただ、誰でも上場できるものではなく、各取引所または市場の運営主体が定める上場審査基準をパスしなければなりません。テストがあるから、ありがたみがあるのです。

わが国の場合、証券取引所は6つだか8つだかありますが、売買の9割以上が東京証券取引所と大阪証券取引所に集中している関係で、この二つの取引所のいずれかに上場することが企業として「名をあげる」ことになります。しかも同じ上場でも、審査基準の厳しい一部上場とややそれが緩い二部上場の区別があります。

加えて、証券取引所以外でも先述した証券会社どうしの売買ネットワークと言える店頭市場と言うものがあり、さらに、近頃ではマザーズやら何やらの審査基準がぐっと緩い新興市場もあり、何だか訳がわかりません。

そうは言っても、一つたしかなのは、一般に上場されている企業は審査を経ているだけに、そうでない企業よりは「つぶれにくい」と言え、その限りでは、社会的信用が高いことです。だからこそ、当社は二部上場を果たしましたといったたぐいの全面広告を新聞に出し、世間にアピールしたりするのです。人間で言えば、「ボク、どこどこ大学に入学させてもらいました」と新聞広告を打っているようなもので、ほほえましい限りです。

上場すると得なのは、社会的信用の面だけではなく、もっと重要なこととして、上場による企業評価の上昇を期待できると同時に、一般の人から事業資金を調達するチャンスが得られることです。企業評価の上昇は具体的にはその会社の株価の上昇を意味しますから、既存株主は(株価が当初の売出価格を上回って上昇するような人気銘柄となる限り)上場で大もうけできます。だからこそタイガース上場といった話が出てくるわけです。その一方、それまでは知り合いの投資家に株式を引き受けてもらうという第三者割り当て (一般向けのpublic offeringに対して、private offeringと言います)か、銀行から借り入れるぐらいしか資金調達の当てがなかったのに、上場により一般投資家からも資金を集める道が開け、事業の拡大に便利です。

ところで、こういった既存の会社が上場するに際しては、株式の売出と募集という言葉の使いわけに注意する必要があります。既に発行され、成立している株式つまり創業者一族など既存株主の保有分 (existing shares held in private) を一般投資家向けに放出することを指して、「売出」と言い、一般投資家による引き受けと会社からの割当を経て初めて発行され、成立する分 (newly issued shares)を募るのが「募集」ですから、この混同は避けなければなりません。特に証券関係の翻訳でここを間違ったら致命的です。

どこかの大学の先生が、発行済株式を意味するoutstanding sharesを堂々と自著で「未払株式」とやっていますが、こういった基本的な術語を使い間違えるのはそれと同じ位重い罪だと思います。

★ 上場の反対は何か

上場というものがどういうものであり、上場するとどうなるのかについて知っている人に比べ、上場廃止の方となると、意外と知られていない感じがあります。加えて、今回の阪神電鉄株の買い集めを報じている記事の中には、「阪神電鉄の上場廃止の可能性も否定できない」といったものまでありますから、基本的な言い回しだけでも拾っておく価値がありそうです。(ちなみに、上場をやめるのではなく、「まだ上場されていないこと」つまりその前段階の「未上場」はunlistedという言い方をします)

上場の反対は、正式には、「上場廃止」であり、英語ではdelistingであり、上場廃止手続はdelisting proceduresです。個別銘柄については、XX stock will be delisted.といった言い方をします。一方、もっと普通の言い方として上で紹介したtake a company publicの正反対の言い方もあり、take a company privateと言います。例えば、「消息筋は、同社の上場廃止の可能性も否定できないとしている」と言いたいなら、Sources do not rule out the possibility of the company being taken private.となります。

上場廃止の手続はおおざっぱに言って二段構えになっています。東京証券取引所の場合、債務超過の疑いがあるなど上場廃止基準に抵触しそうな銘柄あるいは取締役会で解散を決議しており、上場廃止必至の銘柄などは、まずは「監理ポスト」に移され、そこでの売買となります。上場が廃止されるおそれがあるという事実を一般投資家に周知徹底させるために、「注意書き」付きの商品を売買する感じでしょうか。ただ、この監理ポストに割り当てられても、必ずしも上場廃止とはならず、場合によっては、問題なしということで「社会復帰」を果たすケースもあります。

次のステップとして、上場廃止が決まれば、「整理ポスト」に移されます。死刑囚専用の独房みたいな感じでしょうか。原則1カ月間ここで取引が行われ、上場廃止となります。

さて、この「整理ポスト」や「監理ポスト」はわが国独特のしくみとあって、定訳らしきものはありません。例えば、外国投信の目論見書(投資家向けの説明書)などでは、ファンドの組み入れ銘柄の説明の部分で、日経225といった指標の構成銘柄の変動事由として、当然、その銘柄が整理ポストなどに移される事態を想定していますが、そこでも"Seiri Post"あるいは"Kanri Post"となっており、敢えて訳していません。

こういったものを英語で説明する必要がある場合は、ことの実態にそくした説明調の訳にするのが一番楽です。というのは、「ポスト」と言っても売買の区分のことであり、別段、特別な部屋が用意されて、そこでのみ売買されるといったことではありませんから、なおのことこういったスタンスでの訳が重要だと考えます。実際、新聞の株式市場欄をご覧になるとわかりますが、銘柄名の横に、監理ポスト銘柄なら「監」の字が、整理ポスト銘柄なら「整」の字が付いているだけです。特別なセクションでの取引というのではありません。

そうであれば、カネボウ株が監理ポスト入りしたとか、あるいは、カネボウ株を監理ポストに割り当てたと言いたい場合は、Kanebo shares are now assigned a symbol indicating shares undergoing review for delisting.とした方が、They were transferred to a special trading post for...といった説明のしかたよりわかりやすいと思います。また、整理ポストの話も「ポスト」にこだわらなければ、Kanebo shares have been put on a special list of shares due to be delisted.と言えます。

日本語に「ポスト」とあるから、何とかこれを英訳しなければと思う気持ちもわかりますが、これを吹っ切れないようでは、なかなか英語族の仲間に入れてもらえません。特に英訳の場合は、日本語の方にばかり軸足をおかず、英語の方から考えた方がずっとすっきりした訳文を作れるものです。


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コメント

日向先生、1票入れちゃいました!原始人に拝まれては断れないです(笑)。
それに、実は私はトラファンなのです!

ところで、"outstanding shares"私の生徒さん達は皆ちゃんと訳せます。。。

ところで、ところで、法律翻訳者時代の年収が2000万で、今ブログのアクセス数が1日1000超ですか!すごすぎます^_^;!

リンク、ありがとうございます。私も張らせて頂きます。どうかよろしくお願いいたします。

[返信]

投票、ありがとうございます。原始人、使うの勇気が要りましたが、報われました。また、あの嘆きがきいたのか、最近、投票してくださる方が増えており、頑張らねばという気持ちになっています。

2000万は何かの間違いかと思われますが、ご存じのとおり競争相手の何倍も勉強し、お客さんに評価してもらえる限り、法律や金融の翻訳が報われる仕事であるのは本当です。

REIさんの受講生たちがoutstandingをこなせるのはうれしいことです。大学教授レベル以上ということですよ。ちなみにこの先生、何冊も本を出している「大物」です。

日向清人

投稿: REI | 2005年10月21日 (金曜日) 午後 09時51分

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