« ネット企業エキサイトの英語力 -- it'sとitsを混同するという初歩的ミス | トップページ | Dangling modifierという古典的文法ミスについて »

2006年1月20日 (金曜日)

ライブドアに対する強制捜査、風説の流布、偽計などを英語で言うと

先日、ライブドアが東京地検による家宅捜索を受けましたが、報道によると容疑は風説の流布とのことです。その際の報道でさかんに「強制捜査」ということばが使われていました。強制捜査というのは、任意の事情聴取とは対照的に、公権力をもって有無を言わさず必要な証拠を収集する手続ですが、以下で見るとおり、訳語としては、raidが使われます。しかし、raidはもともとは、家宅捜索をすることでしかありません。しかも、searchという「正式の」言葉に対する俗語です。いずれにしろ容疑者を逮捕しての取り調べも強制捜査の一つですから、強制捜査イコールraidにはならないはずです。

そこで今回は、こういった問題意識に立って、ライブドアの強制捜査がらみのことばを英語ではどう言うのかを考えてみます。最初に「強制捜査」を見てから、「風説の流布の容疑で」の訳しかたを考え、最後に「偽計」をとりあげます。

★ 強制捜査

プロの翻訳者のファンが多いオンライン版『英辞郎』でひとまず「強制捜査」と入力してみると、
compulsory investigation // compulsory search // criminal investigation
が出てきます。

何だか今一つという感じです。compulsory investigationについては、逆に、強制力のない捜査って、そもそも捜査とは言えなくなりそうですし、compulsory searchについても、同様に、強制力を伴っていなければ捜索 (search) になりません。最後の criminal investigationは刑事事件の捜査を意味しているだけで、任意の事情聴取という手段も入りますから、これを指して強制捜査とするのは無理があります。何であれ、「どこそこに強制捜査がはいった」と言いたい場合に使えるフレーズではありません。

一方、同じ『英辞郎』は、

強制捜査する
【他動】raid
その会社のおよそ_の支店を強制捜査する
  raid on some __ branch offices of the company
その会社を強制捜査する
 raid the company

などの例文をあげています。たしかに家宅捜索が行われた場合、ロイターやAP電など外国通信社がどのように報じるかを見ていますと、raidという動詞を使って表現しています。例えば、18日付オンライン版 The Wall Street Journal は、こう形容しています。
...investigators from the Tokyo District Prosecutors Office raided Livedoor's Tokyo offices...
ただ、先述したとおり、家宅捜索は強制捜査の一つの態様でしかなく、容疑者を逮捕しての取り調べといったことも強制捜査ですから、raidイコール強制捜査とするのには抵抗をおぼえます。

とりあえずの結論を言えば、英語の場合、家宅捜索に着手することは raid という動詞で、また、捜索の実行そのものは searched the premises (構内を捜索した)というふうに search を使って表すけれども、強制捜査といったまとめた言い方をひとことで表現する英語はどうもなさそうです。

結局、日本語で言う「強制捜査」というのは容疑者の逮捕をも含めた本格的な刑事事件の捜査を指すもののようでもあり、そうとすれば、例えば、例の耐震偽装問題が強制捜査へという段階に至れば、
Authorities are to open a full scale criminal investigation into the construction scandal.
といった言い方で形容できそうです。つまり full scale criminal investigation といった言い方であれば、身柄の拘束までも視野に入れている感じが出ているので、「強制捜査」に一番近いのかなということです。

★ 容疑は風説の流布

何々の容疑でというくだりは、だいたい on suspicion of...というフレーズを使います。ですから、今回のように「風説の流布の容疑で」という場合は、
 on suspicion of spreading false information
となります。また of プラス名詞または 名詞句というパターン以外に、on suspicion that という具合に、that節で受けることもできます。ですから、今回の件、つまり、「東京地検は自社の業務につき風説の流布を行った容疑でライブドアの東京本社を家宅捜索」というケースでは、
...on suspicion that the company had knowingly misled investors by spreading false information about its business practices.
という言い方をすることができます。

この「風説の流布」というのは、相場を動かすべくウソの情報を各方面に伝えることですが、『英辞郎』はと見ると、
 spread rumors
という訳を当てています。

これはこれで正しいと思いますが、証券取引の世界で言うときは、やはり外国のメディアが言うように
spread false information
とする方がすわりがいい感じです。というのも、spread rumorsだと「何々だってさ」」「何々らしいね」といった感じでの個人ベースでの口コミを感じさせるのに対して、spread false information の方は、組織的に内容が虚偽である投資情報を流すという感じがあるからです。

あと、報道では、spread false informationというふうに、動詞としては spread を使った言い方をしますが、本家本元のアメリカの連邦証券取引委員会や裁判例などで、こういった風説の流布をとりあげるときは、
 disseminate false information
というふうに、spreadのフォーマル版である disseminateを使うのが普通です。

余談ですが、よく知られている投資詐欺の一つとして、pump and dump schemeというものがあります。まるでポンプでエネルギーを供給するかのごとくガセネタで相場をあおり、つりあげておいてから、どさっと、そのボロ株を放出して売り逃げをする、つまり dump して逃げることから来ているフレーズです。風説の流布による投資詐欺の典型例です。みなさんのメールボックスに聞いたこともない銘柄に関する「早耳情報」が入っていたりするかと思いますが、あれが、そうです。ちょっとした買いが入ればすぐ大きく動く microcap (時価総額の極端に低い銘柄)の特性に目をつけた、なかなかセンスのいい詐欺だと感心します。

★ 偽計

1月20日付朝日新聞の朝刊によると、ライブドアの関連会社が2004年10月にある出版社を子会社化すると発表してまるで新事業に乗り出したかのような外形を作り出したけれど、実はその出版社はライブドアの身代わりに等しい投資事業組合が数ヶ月前に買収を済ませており、「偽計取引」の疑いがあると言います。

しかも、こういった発表が好感されているところで、株式分割をして小口投資家も買いやすくすることにより人気をあおっておいてから、くだんの投資事業組合がこの関連会社の株を売却したと言います。そして、結果として、売却益7億円の大半がライブドアに還流したのだそうです。

ところで、偽計というのは、人を欺くような手段を指しており、『英辞郎』は
 fradulent means
という訳を与えています。オンライン版の The Wall Street Journal は、
fraudulent practices
という言い方をしていました。どちらも使える感じです。

本家筋に当たるアメリカの証券界では、偽計を用いることを、やはり fraudulent を使って、
use of fraudelent schemes or devices
という言い方をしています。device と言うと、辞書には「器具」「装置」といった訳しか載っていないかも知れませんが、仕掛けとか、計画ということも意味する言葉です。

また、1934年証券取引法の文言上は、
to "employ, in connection with the purchase or sale of any security . . . any manipulative or deceptive device or contrivance in contravention" of any rule promulgated by the SEC designed to protect the investing public (一般投資家を保護するために連邦証券取引委員会が制定した規則「に反する、相場操縦ないし欺罔に当たる仕掛けないし手法を証券の売買に関して用いる」)ことは違法だとされています。

要するに人を騙したり、勘違いさせたりするような手段であれば、device, scheme, or artifice to defraud(人を騙すための仕掛け、詐欺的手法、トリック)とひとくくりにされ、内容的にも虚偽の情報を伝達することはもとより、omit to state a material fact so that the statements made, in light of the circumstances, are misleading (重要な事実を省いた結果、そこでの具体的状況に照らし、誤解を生じさせること)も、偽計に当たるとされています。

なお、これはアメリカでの偽計について言われていることであり、日本の証券取引法上、故意に重要事項を伝えない不作為までもが違法かは承知しておりませんが、投資家保護という立法の趣旨からすれば、当然、この種の不作為も法がカバーして然るべきものがあります。

こういった不作為ないし不開示の問題を含め、風説の流布については、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」というブログがオススメです。専門家が書いているだけにきちんと風説の流布の根拠法規である証券取引法の条文を引用しながら、ああではないか、いや、こうではないかと自問自答している感じで、えらくむずかしい話ながら、引きこまれて読んでしまいました。


kurofuku_a

この記事、いかがでしたか?このリンクをクリックしてくださると、執筆意欲のモトになっている人気ブログランキングに一票入ります。どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングへ

|

« ネット企業エキサイトの英語力 -- it'sとitsを混同するという初歩的ミス | トップページ | Dangling modifierという古典的文法ミスについて »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/98860/8243857

この記事へのトラックバック一覧です: ライブドアに対する強制捜査、風説の流布、偽計などを英語で言うと:

» 素人が理解したライブドア問題の本質 [夜明け前]
[続きを読む]

受信: 2006年1月23日 (月曜日) 午前 04時36分

« ネット企業エキサイトの英語力 -- it'sとitsを混同するという初歩的ミス | トップページ | Dangling modifierという古典的文法ミスについて »